メガネ その2

*1




「目、近くないですか」
本から顔を上げると、うららとこまちが立っていた。
「そうかしら」
「そう思います」
「目、悪くなりますよ」
「何だ、りんも来てたの」
すいすいあがりこんでマフラーをとる。こうやって揃うのは本当にひさしぶりだ。
「部活はどうしたのよ」
「テスト期間中です、先輩」
愛用のボストンバッグから参考書一式と筆箱をとり出しながらりんが言う。あいかわらず、りんはりんだ。
「シュークリームとエクレア、どっちがいい?」
私が訊くと、シュークリーム、と、こまちが目で合図した。大皿にペーパーナプキンを敷き、カップに紅茶を注ぐ。
「最終選考、落ちちゃいました」
持参の惣菜パンに早々にかぶりつきながら、うららが言った。
「でも後悔してません。精一杯やったんだし」
そして紅茶を一口啜り、ミルクありますか、と訊く。私はピッチャーをテーブルに置いた。
「いいんじゃない、それなら」
りんがあっさりと言い、私は事態の深刻度をはかるべくうららの顔を凝視した。
「ほんとに大丈夫なの」
となりに腰かけて詰問し、うららは、もちろんです、と言って微笑んだ。へこんでなんかいられません。
「あら。かれん、この写真集すてきね」
シュークリームをかじりながらこまちが言い、私はいつもながらマイペースの友人にあきれつつ、角砂糖をカップに二個入れながら、
「それなら、答えは簡単よ」
と、うららに向って言った。
「反省は次に活かして、前進あるのみ。後悔先に立たず」
うららは、ひどくまじめにうなずいた。
「たいしたことじゃないよ」
床にペタンと座ってノートを広げたりんが言い、うららにはもっといいチャンスが来るって、と付け足す。
「こういう時は思いっきり楽しむべきよ」
私が言うと、りんは無礼講ですか、と、にやっとした。
「パーティーにはケーキが要るわね」
こまちが嬉々として言う。
「誰が買ってくるのよ」
りんは平然と、試験中は一回休み、などとのたまう。
「じゃあ、こまち行ってきたら」
「あの―」
うららが上目遣いに私を見た。
「あまってるシュークリーム、食べていいですか」