MADLAXを読み解く
ネットで名セリフを漁っていたところからMADLAX熱が再燃して視聴。以前は理系ファンによるMADLAX論を読んでフムフム思っていたけれど、せっかくなので今回はもう少し違う見方もできるといいな。
■超現実な存在であるマドラックス
物語前半、マドラックスはジャングルの激戦地で派手なドレスを着て、そのエキセントリックさをあえて周囲に見せつけている。
それは、こうすればいつか父親が見付け出してくれるかもしれないという淡い期待の込められた、まっすぐな生き方。そう、この頃の彼女には生気があり、人生の目的があった。
しかし、物語が後半にさしかかるにつれ、彼女はねじれた過去の事実を嗅ぎとることになる。「自分に実体がない」という事実に勘付いてしまう。
この、回を重ねるごとに、彼女が自らの真実味に疑念を抱くようすが実に繊細で面白い。ぱっと見ただけでは気付きにくいから、視聴者は彼女の目線や、セリフの行間で思考を慮らなくてはならない。見え隠れする彼女の本質は謎めいていて、空っぽで、ゆえに底無し井戸のように深い。
物語の核となる12年前の出来事は、話数が進むにつれ、彼女の心境の変化に応じあらわになる。
全否定され膨れ上がる猜疑心は、いつしか「わたしは自分が何者なのかわからない。そもそも、この存在すら間違ったことなのかもしれない」という不安へ変わるー。この不安は、ついにマーガレット(彼女のオリジナル)に出会い、触れることで確信へと変化する。
かくして、真実性と虚構性の狭間で現実と非現実を縦横無尽に行き来するマドラックスは、白いドレスに赤いヒール靴で舞い踊り、その戦場とのコントラストは超現実となった。
台詞から再三ほとばしるマドラックスとマーガレットのイノセンスで観念的な台詞もまた、内面の少女性と現実の出来事を激しく対比させる。
これらシュルレアリスムを味わうことが、この作品の醍醐味なのかな、と思う。
■まわりの人たちの本質を追う姿と、そのエゴ。
この物語の登場人物はエゴだらけで、カロッスアが過去を追うように、リメルダが利己的にマドラックスを狙うように、そのうえ善良なヴァネッサにとっても両親の無実を晴らすため翻弄する。献身的であるエレノアだって、どこまでも祖父の遺志を貫き通す。そして、貫き通した人物はほぼ間違いなく死んでいく。物語後半は、戦地が舞台ということもあり、日常パートで懇意にしていた登場人物が次々に散りいく様はなかなか圧巻だった。
■信じるから、生きる
生死と、現実とフィクションが表裏一体となり、登場人物たちの土台となる。
カロッスアは「信じる」ゆえ、実体無くして生きながらえた。フライデーにとっての彼は「偽り」でなので、放つ銃弾はフライデーに当たらない。
マドラックスは、「わたしは凄腕のエージェント」と信じているから、何をしても死なない。自分自身を信じることが、偽りの戦場を生き抜くことへ繋がっているのだ。
■三位一体でないと見出せない過去
過去の刹那、罪を被った慈愛の塊、そして抜け殻の実体。三位一体でないと開かない過去への扉と、三者三様の未来。
■慈愛で殺める
生まれつき衝動から切り離された存在ゆえ、マドラックスは幼児の無邪気と、慈愛で人を殺す。
一方、衝動で兵士を撃ったことを悔いる真人間ヴァネッサ。しかしその後、自ら憎しみによる衝動を抑え、友人を救うために引き金をひく。そこが彼女の成長であったのかな。
■ちょっとシャーマニズム。少しホラー
マーガレットは、生来、予知能力を持つ巫女的な子なのだろう。彼女の神秘性は狂気をともなっているので、突然椅子から立ち上がった不均衡な左右の肩のかんじとか、ゆらっと振り返ったシャフ度とか、時代を先取りしてるみたい。
■メイドを演じきったエレノアの生きざま
何もかもかなぐり捨ててジャンクルを奔走するエレノアは、もうだいぶまえから死ぬ覚悟ができていたに違いない。ハイティーンの彼女が、メイドという時代錯誤な生き方に満足していたのかは、また別の話。
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